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text:chomonju:s_chomonju042

古今著聞集 釈教第二

42 吏部王記曰・・・

校訂本文

吏部王記1)曰、

貞崇禅師2)、述金峰山神変3)云、

古老相伝之、昔、漢土有金峰山。金剛蔵王菩薩住之。而彼山教移滄海而来。是間金峰山則是彼山也。山有捨身谿、号阿古谷。有八体竜。

昔、本元興寺4)僧有童子。名阿古。少而聡恪。試経5)之時、師使阿古奉試。及已得幾代度他人6)。如是両度、爰阿古、恨恚7)捨身此谷。即得竜身。師聞捨身驚悲往看。于時已化竜、頭猶人面、光欲害師。菩薩冥護、崩石圧8)竜。故師免害。

貞観年中、観海法師、為見竜身、往到彼谿。夢竜請9)之、「明朝将見也。」。此天々明、興雲降電、見竜挙首。高二丈許、一頭八身。観海、祈竜云、「奉写八部法華経、将救汝苦。勿10)害於吾。」。竜猶吐気、害将及身。観海大恐、心神迷惑、則帰命菩薩、願写件経等。是雲霧冥、失竜所在。

須臾雲霧即11)除、忽然看身至御在所(菩薩/在所也)。観海祈感如願写経、将供養之、請善祐法師為講師。善祐法師、固辞。夢菩薩告曰、「我今請汝。勿苦推辞。須至方便品漢音読之。」。善祐、感悟起請。如菩薩告、比至方便品、大風飄経、不知所去。

八部法華経今見一巻。

書き下し文

吏部王記(りほうわうのき)に曰はく、

真崇禅師、金峰山神変を述べて云はく、

古老これを相伝す。昔、漢土に金峰山有り。金剛蔵王菩薩これに住す。而して彼の山滄海より移さしめて来たる。この間金峰山は則ちこれ彼の山なり。山に捨身谿(たに)有り。阿古谷と号す。八体の竜有り。

昔、本元興寺の僧に童子有り。阿古と名づく。少して聡恪。試経の時、師、阿古をして試を奉ぜしむ。已に得るに及びて幾代(たび)か他人を度す。是の如くなること両度、爰(ここ)に阿古、恨み恚(いか)りてこの谷に捨身す。即ち竜身を得る。

師捨身を聞きて驚き悲しみて往きて看る。時に已に竜と化すも、頭は猶ほ人面のごとく、光りて師を害さんと欲す。菩薩冥護して、石を崩して竜を圧す。故に師害を免る。

貞観年中、観海法師、竜身を見んが為に、往きて彼の谿に到る。夢に竜これを請ふ。「明朝将に見(まみ)えんとするなり。」。天々明のころ、雲を興し電を降らして、見竜の首を挙ぐるを見る。高さ二丈ばかり、一頭八身なり。観海、竜に祈りて云はく、「八部の法華経を写し奉りて、将に汝が苦を救はんとす。吾を害することなかれ」。竜猶ほ気を吐き、害将に身に及ばんとす。観海大きに恐れ、心神迷惑し、則ち菩薩に帰命して、件の経等を写さんことを願ふ。是に雲霧冥くして、竜の所在を失ふ。

須臾にして雲霧即ち除き、忽然として身の御在所に至るを看る(菩薩の在所なり)。観海祈感して願の如く写経し、将にこれを供養せんとして、善祐法師を請じて講師と為す。善祐法師、固辞す。夢に菩薩告げて曰はく、「我れ今汝を請ず。苦(ねんごろ)に推辞することなかれ。須く方便品に至るまで漢音にこれを読むべし。」。善祐、感悟して起請す。菩薩の告の如くし、方便品に至る比(ころほ)ひ、大風経を飄して、去る所を知らず。

八部の法華経、今一巻を見る。

翻刻

吏部王記曰真崇禅師述金峯山神返(本変)云古老相
伝之昔漢土有金峯山金剛蔵王菩薩住之而彼山教移
滄海而来是間金峯山則是彼山也山有捨身谿号
阿古谷有八体龍昔本元興寺僧有童子名阿古少
而聡恪誠経之時師使阿古奉試及已得幾代度化人
如是両度爰阿古恨悉捨身此谷即得龍身師聞捨身
驚悲往看于時已化龍頭猶人面光欲害師菩薩
冥護崩石厭土龍故師免害貞観年中観海法
師為見龍身往到彼谿夢龍清之明朝将見也此
天々明興雲降電見龍挙首高二丈許一頭八身/s40r
観海祈龍云奉写八部法華経将救汝苦害於吾龍
猶吐気害将及身観海大恐心神迷惑則帰命菩薩願
写件経等是雲霧冥失龍所在須臾雲霧廊除
忽然看身至御在所(菩薩/在所也)観海祈感如願写経将供
養之請善祐法師為講師善祐法師固辞夢菩薩
告曰我今請汝勿苦推辞須至方便品漢音読之善祐
感悟起請如菩薩告比至方便品大風飄経不知所去八
部法華経今見一巻/s40l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/40

1)
重明親王の日記
2)
「貞崇」は底本「真崇」。
3)
「神変」は底本「神返」で「本変」と傍書。傍書を採用する。
4)
飛鳥寺
5)
「試経」は底本「誠経」。諸本により訂正。
6)
「他人」は底本「化人」。文脈により訂正。
7)
「恚」は底本「悉」。諸本により訂正。
8)
「圧」は底本「厭土」。諸本により訂正。
9)
「請」は底本「清」。諸本により訂正。
10)
底本「勿」なし。諸本により補う。
11)
「即」は底本「廊」。諸本により訂正。


text/chomonju/s_chomonju042.txt · 最終更新: 2020/01/12 16:06 by Satoshi Nakagawa