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古今著聞集 釈教第二
39 弘仁五年春伝教大師渡海の願をとげんがために・・・
校訂本文
弘仁五年春、伝教大師1)、渡海の願をとげんがために、筑紫にて、さまざまの作善どもありけり。五尺の千手観音を造り奉り、大般若2)二部一千二百巻、法華経一千部八千巻を写し奉る。
また、宇佐宮3)にて、みづから法華経を講じ給ふに、大菩薩託宣し、「我不聞法音、久歴歳年。幸値遇和尚得聞正教、兼為我修種々功徳。至誠随喜、何足謝徳矣。而有我所持法衣。(我法音を聞かずして久しく歳年を歴(へ)たり。幸に和尚に値遇して正教を聞くを得、兼ねて我が為に種々の功徳を修す。至誠に随喜するも、何ぞ徳を謝するに足らん。しかるに我が所持の法衣有り)」とて、すなはち託宣人みづから宝殿を開き、手に紫の袈裟一つ、紫の衣一つをささげて、「奉上和尚。大悲力幸垂納受。(和尚に奉上せん。大悲の力、幸に納受を垂れたまへ)」と示し給ひけり。禰宜(ねぎ)・祝(はふり)等、このことを見て、「昔よりいまだかかること見聞かず」と言ひけり。
件(くだん)の衣等、いまだ叡山4)根本中堂の経蔵にあり。鳥羽院5)臨幸の時も御拝見ありけり。後白河院6)御幸の時も拝せさせ給ひけるとなん。
翻刻
弘仁五年春伝教大師渡海の願をとけんかために 筑紫にてさまさまの作善とも有けり五尺千手観音 を造奉大般若二部一千二百巻法華経一千部八千巻 をうつし奉る又宇佐宮にてみつから法華経を講 し給に大菩薩託宣し我不聞法音久歴歳年幸 値遇和尚得聞正教兼為我修種々功徳至誠随喜 何足謝徳矣而有我所持法衣とて則託宣人みつ から宝殿をひらき手に紫袈裟一紫衣一をささけて 奉上和尚大悲力幸垂納受と示給けり禰宜祝等此 事をみて昔よりいまたかかる事見きかすといひけり/s37r
件の衣等いまた叡山根本中堂の経蔵にあり鳥羽 院臨幸の時も御拝見ありけり後白河院御幸の時も 拝せさせ給けるとなん/s37l
text/chomonju/s_chomonju039.txt · 最終更新: 2020/01/08 12:32 by Satoshi Nakagawa