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text:chomonju:s_chomonju016

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古今著聞集 神祇第一

16 坂戸の左衛門大夫源康季は年ごろ賀茂につかうまつりけり・・・

校訂本文

坂戸の左衛門大夫源康季は、年ごろ賀茂につかうまつりけり1)。ある夜、御戸開(みとびらき)に参りけるほどに、鴨川の水出でて、通りがたかりければ、岸の上に思ひやり奉りて居たり。

かかるほどに、御戸開参らせんとするに、いかにも開かれさせ給はざりければ、社司とも詮尽きて眠り居たりける程に、ある社司の夢に、康季が参るを待たせ給ひて、開かぬよしを見てけり。

これによりて、氏人どもを迎へに遣はしたりければ、岸の上に惘然として居たりけるを、すくふがごとくにして、具して参りにけり。その後ぞ、御戸は開かれにける。

康季、かく神慮にかなひける故にや、さしもありがたき大夫尉に、近康・康綱・康実・康景、四代絶えず成りにけり。この外、季範・季頼・季実・季国・康重・康尋も、この康季が子孫にて、みなこの職を極めたり。他家には有難きことなり。

翻刻

さかとの左衛門大夫源康季はとし比賀茂につかそまつり
けり或夜御戸開にまいりける程に鴨川の水出て通
かたかりけれは岸のうへに思やりたてまつりて居たり
かかるほとに御戸ひらきまいらせんとするにいかにも開かれ
させ給はさりけれは社司ともせんつきて眠ゐたりける
程に或社司の夢に康季かまいるをまたせ給て開かぬ
よしをみてけりこれによりて氏人ともをむかへにつかはしたり
けれは岸のうへに惘然としてゐたりけるをすくうか
ことくにしてくしてまいりにけり其後そ御戸は開かれにける
康季かく神慮にかなひける故にやさしもありかたき大夫尉に
近康々綱康実康景四代絶す成にけりこの外季範/s16l
季頼季実季国康重康尋も此康季か子孫
にてみなこの職をきはめたり他家には有かたき事也/s17r
1)
底本「つかそまつりけり」
text/chomonju/s_chomonju016.1424771249.txt.gz · 最終更新: 2015/02/24 18:47 by Satoshi Nakagawa