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古今著聞集 神祇第一

1(序) 天地いまだ分かれず渾沌鶏の子のごとし・・・

校訂本文

古今著聞集巻第一

  神祇第一

天地いまだ分かれず、渾沌鶏(まろがしたるとり)の子のごとし。その澄めるはたなびきて天となり、濁れるは沈み滞りて地となる。

時に天地の中に一の物あり。形、葦牙(あしかい)のごとし。すなはち化して神となる。国常立尊これなり。それよりこのかた、天神七代、地神五代なり。

彦波瀲武鸕鷀草葺不合(ひこなぎさたけうかやふきあはせずの)尊の御子、神武天皇よりぞ人代とはなりにける。この御時、戊子の年九月に、初めて諸々の神を祭られけり。

第十代崇神天皇六年に、天照大神を笠縫邑(かさぬいのむら)に祭り奉る。同七年に、天社(あまつやしろ)、国社(くにつやしろ)、及び諸国諸神の神戸を定めらる。その後、世治まり、民豊かなり。

第十一代垂仁天皇二十五年三月に、天照御神(あまてるおほんかみ)の御教へに従ひて、伊勢国五十鈴の河上にいはひ奉りて、第二皇女(ひめみこ)倭姫(やまとひめの)命を斎宮に奉られけり。

凡そ我が朝は神国として、大小祇神1)・部類・眷属・権化の道、感応あまねく通ずるものなり。所謂、神功皇后の三韓を平らげ給ふにも、天神地祇、ことごとく現はれ給ひけるとぞ。これに依りて、かたじけなく、二十二社の尊神を定て、専(もは)ら百王百代の鎮護にそなへ奉る。天子より始て、庶人に至るまで、その明徳を仰がずといふことなし。

桓武天皇の御宇、延暦元年五月四日、宇佐宮の御託宣に、「無量劫の中に、三界に化生して方便をめぐらして衆生を導く。名をば大自在王菩薩といふなり」と仰せられけり。あはれに貴くこそ侍れ。

翻刻

古今著聞集巻第一
  神祇第一
天地いまたわかれす渾沌鶏(マロカシタルトリ)の子のことし其すめるは
たなひきて天となりにこれるはしつみととこほりて
地となる于時天地のなかに一の物ありかたち葦牙(アシカイ)
のことし則化して神となる国常立尊これなり
それよりこのかた天神七代地神五代なり彦波(ヒコナキサ)
瀲武(タケ)鸕(ウ)鷀草(カヤ)葺(フキ)不合(アハセスノ)尊の御子神武天皇
よりそ人代とはなりにけるこの御時戊子の年九月に
はしめてもろもろの神をまつられけり第十代
崇神天皇六年に天照大神を笠縫邑(カサヌイノムラ)に祭たて/s8l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/8

まつる同七年に天(アマツ)社国(クニツ)社をよひ諸国諸神の神
戸をさためらる其後世おさまり民ゆたかなり
第十一代垂仁天皇廿五年三月にあまてる御神(オホンカミ)の
御をしへにしたかひて伊勢国五十鈴(イススノ)河上にいわひ
奉りて第二皇女(ヒメミコ)倭姫(ヤマトヒメノ)命を斎宮にたてまつ
られけり凡我朝は神国として大小祇神部類
眷属権化の道感応あまねく通する物也所謂
神功皇后の三韓(カン)をたひらけたまふにも天神
地祇ことことくあらはれたまひけるとそこれに依て
忝(カタシケナク)廿二社の尊神を定て専(モハラ)百王百代の鎮護に
そなへたてまつる天子より始て庶人に至まて/s9r
その明徳をあふかすといふことなし桓武天皇御
宇延暦元年五月四日宇佐宮ノ御託宣に無量劫ノ
中に三界に化生して方便をめくらして衆生を
導く名をは大自在王菩薩といふなりと仰られ
けりあはれにたうとくこそ侍れ/s9l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/9

1)
諸本「神祇」
text/chomonju/s_chomonju001.txt · 最終更新: 2020/01/06 21:18 by Satoshi Nakagawa