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- 巻1第8話(8) 行賀切耳
- て、行賀僧都に聞こえけるやう、「かけても思ひよるまじきわざなれば、『申すとも、ふつにかなふべし』とも思え侍らねども、思ひわびて、『そればかりこそ、たすけ給はめ』と思ひて、おそれおそれ申すになん。われ、うしろ
- 巻9第8話(118) 江口遊女事
- このこと聞くに、あはれにありがたく思へて、墨染の袖、しぼりかねて侍りき。夜明け侍りしかば、名残りは思え侍れど、再会を契りて別れ侍りぬ。 さて、帰る道すがら、貴く思えて、いくたびか涙を落しけん、今さら心を
- 巻2第4話(12) 花林院発心(山階)
- 徘徊し侍りしが、さしあたりて身の憂へも忘られ侍りしかば、「かくて一期を過ごしたらんも、罪深からじ」と思え侍りき。いはんや、発心堅固にして、心もかしこく、さきらあらん人の、なじか心も澄まで侍るべき。 越(こ
- 巻2第8話(16) 迎西上人(成通卿被仕事)
- 葉和歌集』に載れるほどに侍れば、なかなかともかくも申すに及び侍らず。なほなほ、やさしく澄みわたりてぞ思え侍り。また、慈悲のそのこととなく深くいまそかりけむ、いみじく身に入りて貴くぞ侍る。 げにも、しづかに... て金葉和歌集に のれるほとに侍れは中々ともかくも申に及ひ 侍らすなをなをやさしくすみ渡りてそ思え侍 又慈悲の其事となく深くいまそかりけむいみし く身に入て貴くそ侍るけにも閑に案れはいき
- 巻1第3話(3) 無縁僧帷返
- 、ひたすら幻の世、仮の身をもて離れ、徳を隠して、乞食頭陀のありさまを示されけん心の中、まことに潔くぞ思え侍るぞ。昔のかしこき跡を見るにも、「一挙万里によぢて、徳を隠す」といへり。されば、いかなる智恵の心をお
- 巻4第6話(30) 慶縁事
- 何に、かかるとしもなき老法師の、ただ心のままにあらせて、むなしくこの世を暮さんずらん。くちをしく思え侍るぞや。 ===== 翻刻 ===== 過にし比、こしの方へ罷侍しに舟さか河を舟 にてな... 06l つかれ給ふへき人達の身をなき物にし給て かきけちいまそかるらん何にかかるとしも なき老法師のたた心のままにあらせて 空この世をくらさんすらん口おしく 思え侍るそや/k107r
- 巻2第1話(9) 一和僧都(春日託宣)
- なふ所侍らじ。聖衆にまじはらずは、思ふにしたがふ友もなからんずるものにこそと、今の御託宣、身に入りて思え侍り。 くちをしきかな、心と苦しき所に留り居て、そぞろに胸をこがすことを。そもそも、この維摩会を帝釈... 。ことにめでたきとぞ承はる。さてもまた、一和、世をのがれて、鳥もかよはぬ所にいまそかりけんこと、貴く思え侍り。本尊よりほかには、また頼むべき人もなし。松風よりほかには、こととふ者侍らざりけり。聞くにあはれに
- 巻3第1話(17) 見仏上人
- なし。諸本により補う。))。人里はるかに離れたる岩ほさがしくて、いたく荒磯なり。よにも心のとどまりて思え侍りしかば、しばらくやすらひて見侍りしに、岸、そのこととなく、そびえあがりて、木どもら、よしありて生ひ... でいまそかりて、松風につけ、いとど思ひをまし、寄り来る波に澄める心を洗ひ給ひけんほど、いといさぎよく思え侍り。 身に従へる人もつかず、命を助くる糧(かて)をもしらべ給はで、十日の間住みわたりておはしけん、
- 巻9第7話(117) 空観房事
- 善 を修しても、ことごとく自他の法界に廻向するに侍り」と、のたまはせしに、伝へ聞き侍りしよりも、貴く思え侍りて、随喜の涙、袂をうるほし侍りき。 さて、帰る道すがら、このことを思ふに、上人のたまはせしこと、
- 巻9第4話(114) 観理大徳事
- 字み」。諸本「孚」により訂正。))、いとなみ給ふも、悲しく侍り。また、かくても行く末いかなるべしとも思え侍らねば、早く、われに暇(いとま)を許し給へね。水の底にも入るか、また、ものをも乞ひても、遠き方にまかりなん」とかきくどき言ふに、母、いとど悲しく思えて、「故殿におくれて、片時、『生きてあるべし』とも思え侍らざりしかど、われに心をなぐさめてこそ過ぐすことにてあれ。世の中のあるにもあらず、貧しきわざは、まこ... みしき人の多く侍りし中に、観理大徳と聞こえ給ひぬれば、智恵もかしこく、道心もさこそ深くおはしけめと、思え侍り。 さても、孝養の心の、ことにいまそかりけるこそ、おろかなる心にもいみじく思えて侍れ。情を知れら
- 巻3第9話(25) 貧俗遁世
- りしが、つらつら思へば、しばしがほどの世の中の名を惜しみて、後世をいたづらになし果てんことの、悲しく思え侍りしかば、日ごろ住みし家をなん、其のかたにわきまへて、『妻子は、なにとしても世をわたれ』と思ひて、か... 正。))けんは、今ひときは、仏もいかにあはれと見そなはし給ひけんな。 所のありさまも、いたく澄みて思え侍り。見侍りしころは、神無月の十日あまりのことに侍れば、月は影する木々の無けれども、はれくもる光は、ひ
- 巻3第8話(24) 正直房被人仕
- てもけに」。諸本により削除。))、はては隠れもなきものを、何なかなかに徳をしづめ給ふらん」と、悲しう思え侍る。心の潔く澄めるほどは、いくらばかりと、はかりいふべきふしも思えず。さても、「百すぢりゆがみ房」と
- 巻4第2話(27) 良縁僧正
- りしかば、「めでたき果報のほどはあらはれざらまし((底本、「はれざら」なし。諸本により補う。))」と思え侍り。さても、夫妻ともに、かたのごとく憂き世の中を過ぎ侍りぬるに、この二十日あまりの前(さき)に、彼に... 父にていまそかりけるにこそ。母堂の失せ給ふになん、家を出でて、流浪の行者となり給ふにこそ」と、悲しく思え侍りければ、妻子にいとま乞ひ給ふにも及ばずして、いづちともなく、足にまかせておはしけるほどに、大和・山... つつ、たどり歩(あり)き給ひけん心の中の貴さをば、「いかでか、三世の仏たちの、見すごさせ給ふべき」と思え侍り。 むつましく思え給ひし妻子にも、また、「かく」とも言ふことなく、夕されの空に走り出で給ひて、夜... 葉につけて、ほのかに、「それよ」と知らするやからも侍るべきに、つゆ知らずして過ぐしけん、ありがたくぞ思え侍る。 母の身まかり、父は流浪の桑門となりて、「後世問ひ給へ」とて文を投げ置き去りけん心の中、かへす
- 巻7第14話(74) 北国修行時見人助
- のしげきが本、木曽のかけ橋踏み見しは、「生きてこの世の思ひ出にし、死にて後世のかこつけとせん」とまで思え侍りき。「東路(あづまぢ)こそ、おもしろき所」と聞き置きし、思ひ侍りし、子細の数にもあらざりけり。
- 巻9第3話(113) 安養尼事
- 侍らずや。誰も、さるほどのいみじき人を、親しき方に持ちたらば、なにしにか、後世をもしそなはかすべきと思え侍れども、さらにかひなし。「さる智者・貴人を、兄にても((底本「も」なし。諸本により補う。))、弟にて