世継物語
今は昔、阿倍仲麻呂を唐土(もろこし)へ物習はしに遣はしたりける。
年経て、え帰りまうで来ざりけり。はかなき事につけても、この国の事、恋しくぞ思えける。明州といふ海づらにて月を見て、
あまの原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも
となん、詠みて泣きける。
今は昔あへの仲麿をもろこしへ物ならはしにつかはし たりける年へてえ帰りまうてこさりけりはかなき事に つけても此国の事恋しくそおほえけるめいしう といふ海つらにて月をみて あまの原ふりさけみれは春日なる三笠の山に出し月かも となんよみてなきける/24ウ