大和物語
染殿の内侍といふ、いますかりけり。それを能有(よしあり)の大臣1)と申しけるなん、時々住み給ひける。
もの2)をよくし給ひければ、御衣(おんぞ)どもをなん、あづけさせ給ひける。綾ども多くつかはしたりければ、「雲鳥(くもとり)の紋の綾をや染むべき」と聞こえたりしを、ともかくものたまはせねば、「えなんつかうまつらぬ。定め承はらん」と申し奉りければ、大臣(おとど)の御返事、
雲鳥の綾の色をもおもほえず人をあひ見で年の経ぬれば
となんのたまひける。
典侍因香朝臣古今作者寛平典侍自前 代補及延喜能有文徳源氏右大臣左近大 将寛平九年薨号近衛院大臣 そめとののないしといふいますかり けりそれをよしありのおととと申/d61r
けるなんときときすみ給けるをよくし たまひけれは御そともをなんあつけ させたまひけるあやともおほくつか はしたりけれはくもとりのもんのあや おやそむへきときこえたりしをとも かくものたまはせねはえなんつかう まつらぬさためうけ給はらんと申 たてまつりけれはおととの御返事 くもとりのあやのいろをもおもほ えす人をあひみてとしのへぬれは となんのたまひける/d61l