大和物語
先帝1)の御時、ある御曹司に、きたなげなき童(わらは)ありけり。御門御覧じて、みそかに召してけり。これを人にしも知らせ給はで、時々召しけり。
さて、のたまはせける。
飽かでのみ経ればなるべし逢はぬ夜も逢ふ夜も人をあはれとぞ思ふ
とのたまひけるを、童の心地にも、かぎりなくあはれに思えければ、忍びあへで、友達に、「さなんのたまふ」と語りければ、この主(しう)なる御息所、聞きて、追ひ出で給ひにけるものか、いみじう。
先帝の御時ある御さうしにきたな けなきわらはありけりみかと御らんしてみそかにめしてけりこれを人/d21l
にしもしらせ給はてときときめしけり さてのたまはせける あかてのみふれはなるへしあはぬ よもあふよも人をあはれとそ思ふ とのたまひけるをわらはのここちにも かきりなくあはれにおほえけれは しのひあえてともたちにさなんのたまふ とかたりけれはこのしうなるみやす所 ききてをいいてたまひにけるものか いみしう/d22r