大和物語
桂の皇女1)の御もとに、嘉種2)が来たりけるを、母御息所聞きつけ給ひて、門(かど)をささせ給ひければ、夜一人立ちわづらひて、「帰る」とて、「かく聞こえ給へ」とて、門のはざまより言ひ入れける。
今宵こそなみだの川に入る千鳥なきて帰ると君は知らずや
孚子内親王母仲野親王歟天徳二年四月薨桂宮 かつらの御この御もとによしたねかき たりけるをははみやす所ききつけ たまひてかとをささせ給けれはよるひ とりたちわつらひてかへるとてか くきこえ給へとてかとのはさまより いひいれける/d38r
源嘉種正正五位下美作介従三位刑部卿清和姓氏長猷男 こよひこそなみたのかはにいるちとり なきてかへるときみはしらすや/d38l