大和物語
同じ人1)の、かの父の兵衛佐の失せにける年の秋、家にこれかれ集まりて、宵より酒飲みなどす。
いますからぬことなどの、あはれなることを、客人(まらうど)も主(あるじ)も恋ひけり。あさぼらけに、霧立ち渡りけり、客人、
朝霧の中に君ますものならば晴るるまにまに嬉しからまし
と言ひけり。戒仙(かいせう)、返し。
ことならは晴れずもあらなん朝霧のまぎれに見えぬ君と思はん
をなしひとのかのちちの兵衛佐のうせに けるとしのあきいへにこれかれあつ まりてよひよりさけのみなとすいますか らぬことなとのあはれなることをまら うともあるしもこひけりあさほら けにきりたちわたりけりまらうと あさきりのなかにきみますものならは/d17l
はるるまにまにうれしからまし といひけりかいせうかへし ことならははれすもあらなん あききりのまきれにみえぬきみと思はん まらうとは貫之友則などになんありける/d18r