大和物語
戒仙(かいせう)といふ人、法師になりて、山に住む間に、あらはひなどする人のなかりければ、親のもとに衣(きぬ)をなん洗ひにおこせたりければ、いかなる折にかありけん、むつか りて、「親・はらからの言ふことも聞かで、法師になりぬる人は、かくうるさきこと言ふものか」と言ひければ、詠みてやりける。
今はわれいづち行かまし山にても世の憂きことはなほも絶えぬは
かいせうといふひと法師になりて山に すむあひたにあらはひなとする人の なかりけれはをやのもとにきぬを なんあらひにおこせたりけれは いかなるをりにかありけんむつか りてをやはらからのいふこともきかて/d17r
法師になりぬるひとはかくうるさき こといふものかといひけれはよみてやりける いまはわれいつちゆかましやまにて もよのうきことはなをもたえぬは/d17l