大和物語
比叡(ひえ)の山に、明覚1)といふ法師の、山籠りにてありけるに、しとくにてましましける大徳(だいとく)の、はやう死にけるが室(むろ)に、松の木の枯れたるを見て、
ぬしもなき宿に枯れたる松見れば千年(ちとせ)過ぎける心地こそすれ
と詠みたりければ、かの室に泊りたりける弟子ども、あはれがりけり。
この明覚は、とし子が兄人(せうと)なりけり。
ひゑのやまに念明覚といふ法師のやま こもりにてありけるにしとくにてま しましけるたいとくのはやうしにける かむろにまつの木のかれたるをみて ぬしもなきやとにかれたるまつみ れはちとせすきける心ちこそすれ とよみたりけれはかのむろにとまり たりけるてしともあはれかりけり此 明覚はとしこかせうとなりけり/d16l