大和物語
亭子の御門1)、今はおりゐさせ給ひなんとするころ、弘徽殿2)の壁に、伊勢の御(ご)の書き付けける。
別るれどあひも惜しまぬ百敷(ももしき)を見ざらむことの何か悲しき
となん、ありければ、御門、御覧じて、その傍らに書き付けさせ給ひける。
身一つにあらぬばかりをおしなべて行きめぐりてもなどか見ざらん
となむありける。
亭子のみかといまはおりゐさせたま ひなんとするころこうひてんのかへにい せのこのかきつけける わかるれとあひもをしまぬももしき をみさらむことのなにかかなしき となんありけれはみかとこらんしてその かたはらにかきつけさせ給ける 身ひとつにあらぬはかりををしなへて ゆきめくりてもなとかみさらん となむありけるみかとおりゐ給て又/d4l