徒然草
人の田を論ずるもの、訴(うた)へに負けて、ねたさに、「その田を刈りて取れ」とて、人をつかはしけるに、まづ道すがらの田をさへ刈りもてゆくを、「これは論じ給ふ所にあらず。いかにかくは」と言ひければ、刈る者ども、「その所とても、刈るべき理(ことわり)なけれども、『僻事せん』とてまかる者なれば、いづくをか刈らざらん」とぞ言ひける。
理(ことわり)、いとをかしかりけり。
人の田を論ずるもの。うたへにまけてね たさに。其田をかりてとれとて。人を つかはしけるに。先道すがらの田をさへ かりもてゆくを。是は論じ給ふ所に あらず。いかにかくはといひければ。かるもの ども。其所とても。かるべきことはりな けれども。僻事せんとてまかる者 なれば。いづくをかからざらんとぞいひ ける。理りいとおかしかりけり/k2-52r
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