徒然草
亀山殿建てられんとて、地を引かれけるに、大なる蛇(くちなは)、数も知らずこり集りたる塚ありけり。
「この所の神なり」と言ひて、ことのよしを申しければ、「いかがあるべき」と勅問ありけるに、「古くよりこの地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられがたし」と、みな人申されけるに、この大臣1)一人、「王土にをらん虫、皇居を建られんに、何の祟りをかなすべき。鬼神はよこしまなし。とがむべからず。ただ、みな掘り捨つべし」と申されたりければ、塚を崩して、蛇をば大井河2)に流してげり。
さらに祟りなかりけり。
亀山殿たてられんとて。地をひかれける に大なるくちなは。かずもしらずこりあつ/k2-50l
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0050.jpg
まりたる塚ありけり。此所の神なりと いひてことのよしを申ければ。いかがある べきと勅問ありけるに。ふるくより此地を しめたる物ならば。さうなくほりすてられ がたしと皆人申されけるに。此おとど 一人。王土にをらん虫。皇居を建られん に何のたたりをかなすべき。鬼神はよ こしまなし。とがむべからず。ただみなほり 捨べしと申されたりければ。塚をくづ して蛇をば大井河にながしてげり。/k2-51r
さらにたたりなかりけり/k2-51l
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0002/he10_00934_0002_p0051.jpg