徒然草
竹林院入道左大臣殿1)、太政大臣にあがり給はんに、なにのとどこほりかおはせんなれども、「珍しげなし。一上(いちのかみ)にてやみなん」とて、出家し給ひにけり。
洞院左大臣殿2)、このことを甘心(かんしん)し給ひて、相国3)の望みおはせざりけり。
「亢竜4)の悔いあり」とかやいふこと侍るなり。月、満ちては欠け、もの、盛りにしては衰ふ。よろづのこと、先のつまりたるは、破に近き道なり。
竹林院入道左大臣殿太政大臣にあがり 給はんに。なにのとどこほりかおはせんなれ ども。めづらしげなし一上にてやみなん とて出家し給にけり。洞院左大臣殿 此事を甘心し給て。相国の望おはせ ざりけり元龍の悔ありとかやいふこと 侍る也。月満てはかけ。物盛にし ては衰ふ。万の事さきのつまりた るは。破にちかき道なり/w1-62l
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