徒然草
書写の上人1)は、法華読誦の功積もりて、六根浄にかなへる人なりけり。
旅の仮屋(かりや)に立ち入られけるに、豆の殻(から)を焚きて、豆を煮ける音の、つぶつぶと鳴るを聞き給ひければ、「踈(うと)からぬおのれらしも、恨めしく、われをば煮て、からき目を見するものかな」と言ひけり。
焚かるる豆殻(まめがら)の、はらはらと鳴る音は、「わが心よりすることかは。焼かるるは、いかばかり堪(た)へがたけれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞こえける。
書写の上人は。法華読誦の功つもり て。六根浄にかなへる人也けり。旅のかり やに立いられけるに。豆のからをたきて 豆を煮ける音の。つぶつぶとなるを聞 給けれは。うとからぬをのれらし も。うらめしく。我をば煮てからきめを/w1-53l
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見する物哉といひけり。たかるるまめ がらの。はらはらとなるをとは。我心よりす ることかは。やかるるはいかばかり堪がたけれ ども。力なき事也。かくな恨給そとぞ きこえける。/w1-54r
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/he10/he10_00934/he10_00934_0001/he10_00934_0001_p0054.jpg