徒然草
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。
多くの銭(あし)を給ひて、数日に営み出だして、かけたりけるに、おほかた廻(めぐ)らざり ければ、とかく直しけれども、つひに回らで、いたづらに立てりけり。
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせければ、やすらかにゆひて参らせたりけるが、思ふやうに廻りて、水を汲み入るることめでたかりけり。
よろづに、その道を知れる者は、やんごとなきものなり。
亀山殿の御池に。大井川の水をま かせられんとて。大井の土民におほせて。 水車をつくらせられけり。おほく のあしを給て。数日にいとなみいだし て。かけたりけるに。大方めぐらざり ければ。とかくなをしけれども。終に/w1-39r
まはらでいたづらにたてりけり。さて宇治 の里人をめして。こしらへさせければ。 やすらかにゆひてまいらせたりけるが。 思ふやうにめぐりて。水をくみいるる 事めでたかりけり。万に其道をし れる者は。やんごとなきもの也/w1-39l
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