とはずがたり
今朝は、夜の中に還御とてひしめけば、起き別れぬるも、「憂きから残る」と言ひぬべきに、これは御車の尻に参りたるに、西園寺1)も御車に参る。清水の橋の上までは、みな御車をやり続けたりしに、京極より御幸(ぎよかう)は北へなるに、残りは西へやり別れし折は、何となく名残惜しきやうに車の影の見られ侍りしこそ、「こは、いつよりの習はしぞ」と、わが心ながらおぼつかなく侍りしか。
りぬるこそけさは夜の中に還御とてひしめけはおき わかれぬるもうきからのこるといひぬへきにこれは御車 のしりにまいりたるにさいおん寺も御くるまにまいるき よ水のはしのうへまてはみな御くるまをやりつつけたり しに京こくより御かうは北へなるにのこりはにしへやりわ かれしおりはなにとなくなこりおしきやうに車のかけ のみられ侍しこそこはいつよりのならはしそとわかこころ なからおほつかなく侍しか/s108r k2-86