醒睡笑 巻8 茶の湯
古今万葉集といふ壺を持ちてくすむ人あり。聞く者珍しがり、その心をきかんと望めども、あへて語らず。言はぬに深き心のほどゆかし。いたく執心し尋ねけるに、かの壺ぬし言ふ「古(こ)は古茶、今(きん)は新茶、万葉は無上別義そう、集はいづれをも集め詰むるゆゑに、その徳をもつて名とす」。
一 古今万葉集といふ壺をもちてくすむ人あり 聞者めつらしかり其心をきかんと望めとも あへてかたらすいはぬにふかき心のほとゆかし いたく執心し尋けるに彼壺ぬしいふ古は古 茶今は新茶万葉は無上別義そう集は いつれをもあつめつむる故に其徳をもつて 名とす/n8-56r