醒睡笑 巻8 頓作
幽斎法印1)ある所へ立ち寄らせ給ふに、家老の人立ち出で、挨拶つかまつる。
その座の脇に、机に手習ふ双紙あり。取りて御覧ずれば、「それはわがせがれの清書にて候ふ」と申したり。「さてさて奇特(きどく)な」と讃め給ひつれば、「御覧じ候ふ方、みなさやうに仰せ候ふ」と言ひ果てて、奥へ通りたるあとに、
奈良坂やこの手を讃むる親心とにもかくにもうつけ人かな
一 幽斎(ゆうさい)法印あるところへ立よらせ給ふに家老人/n8-12r
立出挨拶(あいさつ)仕其座の脇に机に手習ふ双紙 あり取て御覧すれはそれは我せかれの清書 にて候と申たり扨々奇特(きとく)なとほめ給ひつれは 御覧し候かたみなさやうに仰候といひはてて 奥へとをりたる跡に なら坂や此手をほむるおやこころ 兎にも角にもうつけ人かな/n8-12l