醒睡笑 巻7 廃忘
神事能のありけるに、地下(ぢげ)の庄屋の息子に稽古をさせ、大夫になし、始めて舞台へ出だしける。「自然(しぜん)忘るることもありなめ」と、論議のかしら書きを仮名に書きたり。
「兼平1)の御最期は、何とかならせ給ふらん」と問ふ時、ちらと手の内を見てあれば、汗に流れ正体なし。肝をつぶし、「兼平の御最期は、むつちやとならせ給ひけり」と。
一 神事(しんじ)能のありけるに地下の庄屋のむすこ にけいこをさせ大夫になし始(はしめ)て舞臺へ出し ける自然(しぜん)わするる事もありなめと論議(ろんぎ)/n7-27l
のかしら書(かき)をかなに書たり兼平(かねひら)の御(ご)さ いごはなにとかならせ給ふらんととふ時ちらと手 の内を見てあれば汗にながれ正体なし 肝をつぶし兼平の御さいごはむつちやと ならせたまひけりと/n7-28r