醒睡笑 巻7 思の色を外にいふ
男と女とまじはりて、いろいろ物語のありつるに、一人言ふ、「和泉の国には、何ともをかしき名字(みやうじ)がある。『野尻』のやれ、『草部』のやれ」と。また一人が、「大和にも『へぐり谷』のやれ、『馬の尻』のやれというて、腰より下(した)の言葉ばかりなり」と話しければ、四十ばかりなる女房のさし出で、「それよりはまだ聞きにくいがある」と。「何ぞ」と問はれ、「生地殿(おえぢどの)とての」。
一 男と女とましはりていろいろ物かたりの有 つるに一人云和泉の国にはなにともおか しき名字(めうじ)がある野尻(のしり)のやれ草部(くさべ)の やれと又ひとりか大和にもへぐりだにの やれ馬の尻(しり)のやれといふて腰よりしたのこと/n7-6l
ばはかりなりとはなしけれは四十斗なる 女房のさしいてそれよりはまだききにくひが あるとなにぞととはれ生地(おゑぢ)殿とての/n7-7r