醒睡笑 巻6 推はちがうた
堺1)の津より作城といふ座頭、讃岐に渡る。ころは霜月寒夜の旅なるに、広間に薄衣にて寝(い)ねんことをいたはり、局方(つぼねがた)より濁酒を燗(かん)をいかにも熱くし、十一・二なる女房に持たせけり。「これを衾(ふすま)に着て寝られよ」と言へば2)作城はまことの衾と思ひ、「年よりぬれば、起き臥すもむつかしきに、寝ねてゐながら、とてものことに着せて給はれ」と申しければ、「おう」と言うて、ぢきに頭へかけごとは。
名人の寄り合ひにては候はずや3)。
一 楮の津より作城といふ座頭讃岐にわたる比 は霜月寒夜の旅なるに広間に薄衣にて いねん事をいたはり局方より濁酒をかんを いかにもあつくし十一二なる女房にもたせけり 是をふすまにきてねられよといへと作城はまことの/n6-53l
衾とおもひ年よりぬれは起ふすもむつかしき にいねてゐながら迚の事にきせてたまはれと申 けれは応といふてちきに頭へかけことは 名人のよりあひにては候はすや/n6-54r