醒睡笑 巻6 推はちがうた
洛陽1)に一噌(いつそ)とて、名を得たる笛吹きあり。弟子の無器用なるに、名を秋風と付くる。
かの弟子、心に思ふやう、「秋風は物にあふといふ縁あり。わが笛を褒賞して付けられけるこそかたじけなけれ」と自慢限りなき折節、同学の者、一噌に問ふ、「秋風とは何のゆゑに付け給ふぞや」。「別に、われは所存なし。秋風は吹くほと悪しきものなり。かれが笛も、吹くほど悪いほどに」と。
推はちがうた 一 洛陽に一噌とて名を得たる笛吹あり弟 子の無器用なるに名を秋風とつくる彼弟子 心に思ふやう秋風は物にあふといふえん有 我か笛を褒賞してつけられけるこそ忝けれ と自慢かぎりなきおりふし同学の者一噌 にとふ秋風とはなんの故につけ給ふそや別 に我は所存なし秋風はふくほとあしき物 なりかれか笛も吹ほとわるいほとにと/n6-41l