醒睡笑 巻6 詮ない秘密
二郎大夫といふ百姓、夫婦ともに連れ、河内の国今田の市1)に立つ。人多く集まりたる中にて、知人に行き合うたり。「さても二郎大夫は」と言ふに、そのまま返答に及ばず、走り寄り、「そそとものを言うて給はれ」。「誰(た)そに隠るるか」。「いや、息子を内に寝させて来たが、もし声の高きに目が覚めうずらう」と。
一 二ら大夫といふ百姓夫婦ともにつれ河内の国 今田の市にたつ人おほくあつまりたる中/n6-38l
にて知人に行あふたりさても二ら大夫はと いふに其まま返答にをよはすはしりよりそそと 物をいふてたまはれたそにかくるるかいやむすこを 内にねさせて来たか若声のたかきに目かさ めうすらふと/n6-39r