醒睡笑 巻6 若道知らず
若き僧、一夜の宿を借りけるに、十一・二歳なる少人(せうにん)、同じ座敷に寝(い)ねたるに、何事やありけん、亥の時ばかりに、「母(かか)よ、母よ、尻に火かついたは」と、しきりに呼ばはる。「あら悲しや」と急ぎふためき、火を持ち来たり見て、「大事もないぞ。お坊主様の精(せい)が入つて消して給はつたは」。
人はただ十二三より十五六盛り過ぐれは花に山風
一 わかき僧一夜の宿をかりけるに十一二歳なる 少人同座敷にいねたるに何事やありけん亥の 時はかりにかかよかかよ尻に火かついたはとしき りによははるあらかなしやといそきふためき火を もち来り見て大事もないぞお坊主様のせいが いつてけしてたまはつたは 人は唯十二三より十五六 さかり過れは花に山風/n6-29r