醒睡笑 巻5 上戸
年の内の立春に、めでたしとて、奉公の衆、おのおの出仕をとげけり。すなはち飯器(はんき)を盃に出だし、「これにて一つづつのおとほり」と定む。
古老の人、二盃受くる。「それは何とて」と咎められ、「かしこまりて候ふ。
年の内に春は来にけり一年を去年とやいひわん今年とやいひわん1)」
と吟じて、時の今日をぞもよほしける。
一 年の内の立春に目出たしとて奉公の衆 各出仕をとげけり即飯器(はんき)を盃に出し これにて一つつつのおとをりとさたむ古老の 人二盃うくるそれはなにとてととがめられ 畏て候 年のうちに春はきにけり一とせを 去年とやいひはんことしとやいひはん と吟じて時の今日をそもよほしける/n5-41l