醒睡笑 巻5 婲心
木こりの、斧(おの)を山守に取られ、心憂く思ひつつ杖つきてゐける。山守見て、「さるべきことを申せ。取らせん」と言ひければ、
悪しきだになきはわりなき世の中によきを取られてわれいかにせん
と詠みたりければ、山守、「返しせん」と思ひて、「うう、うう」とうめきけれども、えせざりけり。
さて、斧を返し取らせてければ、「嬉し」と思ひけりとぞ。
一 木こりの斧(おの)を山守にとられ心うく思ひつつ 杖(つゑ)つきて居(ゐ)ける山守見てさるべきことを 申せとらせんといひけれは あしきたになきはわりなき世中に よきをとられてわれいかにせん とよみたりけれは山守返しせんとおもひて ううううとうめきけれ共えせざりけりさて/n5-16r
斧を返しとらせてけれはうれしと思けりとそ/n5-16l