醒睡笑 巻3 文の品々
根来(ねごろ)1)にて、岩室の梅松とかや聞こえし若衆に、ぎこつなき法師の思ひを寄せながら、言ひ寄らんたよりもなければ、せせり書きする人を語らひ、「文を一つ書きてくれられよ。文章のことは、われ好まん」となり。「ともかくも」と筆を染めうかがひゐければ、「おれはそなたに惚れたげな。恋の心か、頭(かしら)が痛い」と。
文之品々 一 根来(ねごろ)にて岩室(いはむろ)の梅松とかや聞えし 若衆にきこつなき法師のおもひをよせ ながらいひよらんたよりもなければせせりがき する人をかたらひ文を一つかきてくれられよ ぶんしやうの事はわれこのまんとなりとも かくもと筆をそめうかがひゐけれはをれは そなたにほれたげな恋の心かかしらがいたいと/n3-30l