醒睡笑 巻1 鈍副子
二番にかまへられたる聟殿、舅(しうと)の方へ始めて行く。似たる1)を友の教へけるやう、「初対面(しよたいめん)に物を言はずは、うつけとこそ思ふべけれ。あひかまへ、何とぞ時宜(じぎ)をでかせよ」。「心得たり」とうけごひつるが、一言の挨拶となし。
すでに座を立たんとする時、聟殿が言ひ出すやう、「何と舅殿は一(ひと)かいほどある鴫(しぎ)を御覧じたことはおらないか」。「いや、見たることはおりない」。「私も見参らせぬ」と。
言はぬは言ふにまさるとやらん2)。
一 二番にかまへられたる聟殿舅(しうと)のかたへ始て 行似(以か)たるを友のをしへけるやう初対面(しよたいめん)に 物をいはすはうつけとこそおもふへけれ相構(かまへ)/n1-55r
なにとそ時宜(しぎ)をてかせよ心得たりとうけ こひつるが一言の挨拶(あいさつ)となしすてに座を たたんとする時聟殿かいひ出すやうな にと舅殿は一抱(かい)ほとある鴫を御らんした 事はおらないかいや見たる事はおりない私も 見まいらせぬといはぬはいふにまさるとやらん/n1-55l