無名抄
大輔小侍従一双事
近く女歌詠みの上手にては、大輔・小侍従とて、とりどりにいはれ侍りき。
大輔は今少し物など知りて、根強(ねづよ)く詠む方は勝り、侍従は華やかに目驚く所詠み据うることの優れたりしなり。
中にも歌の返しすることの優れたりとぞ。「本歌にいへることの中に、さもありぬべき所をよく見つめて、これを返す心ばせの、あふかたきもなきぞ」とて、俊恵法師は申し侍りし。
大輔小侍従一双事 ちかく女哥よみの上手にては大輔小侍従とて とりとりにいはれ侍き大輔は今すこし物なとしり てねつよくよむかたはまさり侍従ははなやかに めをとろく所よみすふることのすくれたりし也 なかにもうたのかへしすることのすくれたりとそ 本哥にいへることのなかにさもありぬへき所をよく みつめてこれをかへす心はせのあふかたきもなきそ/e53r
とて俊恵法師は申侍し/e53l