蒙求和歌
檀卿沐猴
漢の平御侯許伯1)が家に、丞相以下、時の人来たり賀しけるに、蓋寛饒一人来ざりけり。許伯、呼びにやりければ、初めて入り来たれり。
賓客、酒たけなは2)にして、興に乗りてけるほどに、長信の少府3)檀長卿、犬と猴(さる)との戦ひあへる真似をして舞ひけり。時に客、みな笑ひけり。
寛饒、一人喜ばずして、後におほやけ4)に奏していはく、「列卿5)の身をもちて、軽々しく沐猴の舞をなすこと、礼を失へるなり」と申しけり。世に聞こえにけり。
いかばかりみづの心の酔(ゑ)ひにけむ波たちさはぐ猿沢の池
檀卿沐猴 漢ノ平御侯許伯カ家ニ丞相以下時人/キタリ賀シケルニ蓋寛饒ヒトリコサ リケリ許伯ヨヒニヤリケレハハシメテイリキタレリ賓客酒 タケ□ワニシテ興ニノリテケルホトニ長信少符檀長卿イヌ/d2-50r
トサルトノタタカヒアヘルマネヲシテマヒケリトキニ客ミナワラヒ ケリ寛饒ヒトリヨロコハスシテノチニヲホヤケニ奏シテ云ク 烈卿ノミヲモチテカルカルシク沐猴ノ舞ヲナスコト礼ヲウシ ナヘルナリト申ケリヨニキコヘニケリ イカハカリミツノココロノヱイニケム ナミタチサハクサルサハノイケ/d2-50l