蒙求和歌
荘周畏犠
荘周1)は楚の人、天下にすぐれたる賢者なり。楚王、使(つかひ)を遣はして、「相とせむ」と仰せられければ、荘周、使に会ひていはく、「なんぢ、犠牲(いけにえ)を見ずや。始めは繒綵を着せ、葭芻2)を飼へども、終りには引きて大廟に入りて、几犢となりぬ。われ犠牲の例(ためし)にならじ」と言ひて、深くこもり居にけり。
荘周は夢中に胡蝶となりし人なり。
時を待つ同じ羊の身となして思はぬかたに歩むべきかは
荘周畏犠 〃〃ハ楚ノ人天下ニスクレタル賢者也楚/王ツカヒヲツカハシテ相トセムトヲホセラレケレハ 荘周ツカヒニアヒテ云ナムチ犠牲(イケニエ)ヲミスヤハシメハ繒綵ヲ キセ葭(カ)芻(スウ)ヲカヘトモヲハリニハヒキテ入テ大廟ニ几犢ト ナリヌワレ犠牲ノタメシニナラシト云テフカクコモリヰニケリ 荘周ハ夢中ニ胡蝶トナリシ人也 トキヲマツヲナシヒツシノミトナシテ ヲモハヌカタニアユムヘキカハ/d2-17l