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蒙求和歌

第6第2話(92) 落下暦数

校訂本文

落下暦数

落下閎、算術にかしこかりし人なり。行く末千年の暦(こよみ)を作りて、おほやけに奉りけり。

後に、一行阿闍梨、謗(そし)る所ありければ、「いづれにつくべきぞ」と問はれて、かれこれ用捨1)を定むるに、暦の裏に、「行く末に、上人、出で来たりて、わが暦を謗ることあるべし」と、かねて書き置きけるなりけり。

おのおの目を驚(おどろ)かして、つひにあらたまられずと言へり。

  天の川空に数へし月なみも千代を重ねたる水茎のあと

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落下暦(レキ)数
落下閎笇術ニカシコカリシ人也ユクスヱ千年ノコヨミヲツ
クリテヲホヤケニタテマツリケリ後ニ一行阿闍梨ソシルトコロ
アリケレハイツレニツクヘキソトトハレテカレコレ周捨ヲサタムルニ
コヨミノウラニユクスヱニ上人イテキタリテワカコヨミヲソシル
コトアルヘシトカネテカキヲキケルナリケリヲノヲノメヲヲト
ロカシテツヒニアラタマラレスト云ヘリ
  アマノカハソラニカソヘシ月ナミモチヨヲカサネタルミツクキノアト/d1-46l
1)
「用捨」は底本「周捨」。書陵部本二本により訂正