蒙求和歌
宋女愈謹
宋女は鮑蘇が妻なり。夫(をとこ)の心につゆばかりもたがはず、姑(しうとめ)を養ふこと、はなはだ懇(ねんご)ろなり。鮑蘓、衛の国に仕へて、三年を経けるほども、姑を養ふこと怠らず。
鮑蘓、新しき女を迎へ置きてけり。宋女、いまの妻(め)のもとへ、さまざまの物を贈り、情(なさけ)をかけけり。姑を養ふこと、いよいよ深く謹しみけり。
このこと、世に聞こえて、人の妻の良きには、まづ宋女がためしを引きける。おほやけ、聞きあはれび給ひけり。鮑蘓、心ざしを思ひ知りて、つひに二心(ふたごころ)なくなりにけり。
ありはてぬとがとぞ今はなりなましうきをも慕ふ心ならずは
宋女愈謹 宋女ハ鮑蘓カ妻ナリヲトコノココロニツユハカリモタカハスシウ トメヲヤシナウ事ハナハタネムコロナリ鮑蘓衛ノ国ニツカヘテ 三年ヲヘケルホトモシウトメヲヤシナフコトヲコタラス鮑蘓 アタラシキ女ヲムカヘヲキテケリ宋女イマノメノモトヘサマサマノ 物ヲヲクリナサケヲカケケリシウトメヲヤシナウコトイヨイヨフカ クツツシミケリコノコトヨニキコエテ人ノメノヨキニハマツ宋女カ タメシヲヒキケルヲホヤケキキアハレヒ給ケリ鮑蘓ココ ロサシヲヲモヒシリテツイニフタココロナクナリニケリ アリハテヌトカトソイマハナリナマシ ウキヲモシタフココロナラスハ/d1-45r