蒙求和歌
高鳳漂麦 晩立
後漢の高鳳、勤学の人なり。その妻(め)、とかくして貧しき世を渡りけり。麦を庭にさらして、雀・鶏を追へとて、竿を高鳳に与へて、妻は市へ出でにけり。
時に、雨、にはかに降りて、麦、流れにけり。妻、市より返りて、おほきに恨みければ、「われ、誤てり。書読みつるほどに、雨の降ることも、麦の流れつらむことも忘れにけり」と言ひて、わび歎きけり。
おほやけ、聞き給ひて、公車をつかはして召せども1)、偽り遁れて参らず。妻と田を作りて、こもり居にけり。
夕立の庭の契りも忘れみつ深き流れを汲むとせしまに
高鳳漂麦 晩立 後漢ノ高鳳勤学ノ人也其妻(メ)トカクシテマツシキヨヲワタリ ケリ麦ヲ庭ニサラシテススメニハトリヲヲヘトテ竿ヲ高鳳ニ アタヘテ妻ハ市ヘ出ニケリ時ニ雨ニハカニフリテ麦ナカレニケリ 妻市ヨリ返テヲホキニ恨ミケレハ我レアヤマテリ書ヨミ ツル程ニ雨ノフルコトモ麦ノナカレツラムコトモワスレニケリト云テ ワヒナケキケリヲホヤケキキ給テ公車ヲツカハシテイツハリノ カレテマイラス妻ト田ヲツクリテコモリ居ニケリ ユフタチノニハノチキリモワスレミツフカキナカレヲクムトセシマニ/d1-18r