古本説話集
道命阿闍梨事
道命阿闍梨の事
今は昔、右衛門尉なりける者の、えせなる親を持ちて、「人見る。面伏せなり」とて、伊与の国より上りけるが、海に親を落し入れてけるを、人、心憂がり、あさましがりけるに、「七月十五日に盆を奉る」とて、急ぐを見給ひて、道命阿闍梨、
わたつ海に親落し入れてこの主の盆する見るるぞあはれなりける
いまはむかし右衛門尉なりけるもののえせ なるをやをもちて人みるをもてふせなり とて伊与のくによりのほりけるかうみにをや をおとしいれてけるを人こころうかりあ さましかりけるに七月十五日にほむをたて まつるとていそくをみ給て道命阿闍梨 わたつうみにをやおとしいれてこのぬしの ほむするみるそあはれなりける/b56 e28