古本説話集
和泉式部歌事
和泉式部、歌の事
今は昔、和泉式部が女、小式部の内侍失せにければ、その子どもを見て、式部、
とどめ置きて誰をあはれと思ふらん子はまさりけり子はまさるらん
また書写の聖1)のもとへ
暗きより暗き道にぞ入ぬべきはるかに照らせ山の端の月
と詠みて奉りたりければ、御返事に袈裟をぞつかはしたりける。
病づきて失せむとしける日、その袈裟をぞ着たりける。歌の徳に後の世も助かりけむ。いとめでたきこと。
いまはむかしいつみしきふかむすめ小式部 の内侍うせにけれはそのこともをみて式部 ととめをきてたれをあはれとおもふらん こはまさりけりこはまさるらん また書写のひしりのもとへ くらきよりくらきみちにそいりぬへき はるかにてらせ山のはの月/b42 e21
とよみてたてまつりたりけれは御返事にけさをそ つかはしたりけるやまひつきてうせむとしけるひ そのけさをそきたりけるうたのとくにのちの世も たすかりけむいとめてたき事/b43 e21