今昔物語集
今昔、七月十五日の□盆の日、極く貧かりける女の、祖(おや)の為に食を備ふるに堪へずして、一つ着たりける薄色の綾の衣の表を解て、瓷(ほとぎ)の盆(ぼん)に入れて、蓮の葉を上に覆て、愛□寺に持参て、伏礼て泣て去にけり。
其の後、人怪むで、寄て此れを見れば、蓮の葉に此く書たりけり。
たてまつるはちすのうへの露ばかりこれをあはれにみよのほとけに
と。人々此れを見て、皆哀がりけり。
其の人と云ふ事は知らで止にけりとなむ語り伝へたるとや。