十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
無縁なる法師の、人のもとにて、物乞ひけるに、東面に居たる人は、すさめざりけり。
西面にある人は、時々ものを取らせければ、
行ひをつとめてもののほしければ西をぞ頼むくるるかたとは
とぞ詠めりける。
そののち、いよいよあはれみて、ものをなん取らせけり。
五十三無縁ナル法師ノ、人ノモトニテ物乞ケルニ、東面ニヰタル人ハ スサメサリケリ、西面ニアル人ハ時々物ヲトラセケレハ、 ヲコナヒヲツトメテモノノホシケレハ、西ヲソタノムクルル方トハ トソヨメリケル、其後イヨイヨ哀ミテ物ヲナントラセケリ、/k87