十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
大斎院1)と申す宮の御所の内に、「女房に物申さん」とて、蔵人惟規2)、忍びて参りたりけるを、侍ども見つけて、あやしみ思ひけるに、隠れて誰とも言はざりければ、門をさしてとどめけるに、
神垣は木の丸殿にあらねども名乗りをせねば人とがめけり
と詠みけるを、かのたづねらるる女房、院に申しければ、許されにけり。
四十大斎院ト申宮ノ御所ノ内ニ女房ニ物申サントテ、蔵人/k76
惟規忍テ参リタリケルヲ、侍トモ見付テアヤシミ思ケ ルニ、カクレテ誰トモイハサリケレハ、門ヲサシテトトメケルニ、 神カキハ木ノマロトノニアラネトモ、ナノリヲセネハ人トカメケリ トヨミケルヲ、彼タツネラルル女房、院ニ申ケレハ、許レニケリ、/k77