十訓抄 第十 才芸を庶幾すべき事
和泉式部が男の、かれがれなりけるころ、貴船に詣でたりけるに、蛍の飛ぶを見て、
もの思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づるたまかとぞ見る
とながめければ、社の内より、忍びたる御声にて、かく聞こえけり。
奥山のたぎりて落る滝つ瀬の玉散るばかりものな思ひそ
そのしるしありけるとぞ。
十二和泉式部カ男ノカレカレナリケル比、貴舟ニ詣タリケルニ、 ホタルノトフヲミテ、 物思ヘハ沢ノホタルモ我身ヨリ、アクカレ出ル玉カトソミル トナカメケレハ、社ノ内ヨリ忍ヒタル御声ニテ、カク聞エケリ、 オク山ノタキリテ落ルタキツセノ、タマチルハカリ物ナオモヒソ、 ソノシルシアリケルトソ、/k49