十訓抄 第一 人に恵を施すべき事
宇治殿1)少年の時、俊賢卿2)と、花盛りに北山辺に遊覧し給ひけるに、ある堂の中に人々入らむとしけるを、俊賢、入らずしていはく、「このほど、北方塞(ふた)がらず。もし、穢気もこそあれ」と言ひて、下人を入れて見するに、中門の廊下の前に車を立てたり。死人の入りたりけり。
「御堂の内へ入らましかば、触穢ありなまし」と自讃せられけり。
宇治殿少年の時、俊賢卿と花さかりに北山辺に遊覧 し給けるに或堂の中に人々入らむとしけるを、俊賢入ら すして云く、此程北方ふたからす若穢気もこそあれと 云て、下人を入てみするに、中門の廊下の前に車をた/k67
てたり死人の入たりけり、御堂の内へ入ましかは触穢 有なましと自讃せられけり、/k68