今物語
弘誓房といふ説経師、人の物を借りて、多くなりて後、「返し遣る」とて、その文の中に書き付けける、
夜や寒き衣や薄き借る銭(ぜに)の日ごろを経てはあと使ひつつ
弘誓房といふ説経師人の物をかりておほくなりて後 返しやるとてそのふみの中に書つけける 夜やさむき衣やうすきかるせにの日比をへてはあとつかひつつ/s29r