今物語
昔、周防内侍が家の、あさましながら、建久のころまで、冷泉堀河の西と北との隅に、朽ち残りてありけるを、行きて見ければ、
我さへ軒のしのぶ草1)
と、柱に昔の手にて、書き付けたりしがありける、いとあはれなりけり。
これを見て、ある歌詠み書き付けける、
これやその昔の跡と思ふにも忍ぶあはれの絶えぬ宿かな
むかし周防内侍か家のあさましなから建久のころまて 冷泉堀河のにしときたとのすみにくちのこりて有ける を行て見けれは 我さへ軒のしのふ草かな と柱にむかしのてにて書つけたりしかありけるいとあ はれなりけりこれをみてある哥よみ書つけける これやそのむかしの跡とおもふにもしのふあはれのたえぬ宿かな/s25r