今物語
八幡の袈裟御子が、幸ひの後、うち続き人に思はれて、大菩薩の御事を知り参らせざりければ、若宮の御祟りにて、一人持ちたりける娘、大事に病みて、目のつぶれたりけるを、異(こと)祈りをせず1)、娘を若宮の御前に具して参りて、膝の上に横ざまにかき伏せて、
奥山にしをるしをりは誰がため身をかき分けて生める子のため
といふ歌を神歌に、泣く泣くあまた度(たび)歌ひたりければ、やがて御前にて、病やみ、目もさはさはと明きにけり。
八幡の袈裟御子かさいはいののちうちつつき人におも はれて大菩薩の御事をしりまいらせさりけれはわか 宮の御たたりにてひとりもちたりけるむすめ大事に やみてめのつふれたりけるをこといのりをとすむすめを 若宮の御まへにくしてまいりてひさのうへによこさま にかきふせて おく山にしほるしほりは誰かため身をかきわけてむめる子のため といふ哥を神うたになくなくあまたたひうたひたりけれは やかて御前にてやまひやみめもさはさはとあきにけり/s21l