今物語
小大進と聞こえし歌詠み、いと貧しくて、太秦(うづまさ)へ参りて、御前の柱に書き付けける歌
南無薬師(なもやくし)あはれみ給へ世の中にありわづらふも同じ病を
と、詠みたりければ、ほどなく八幡(やはた)の別当光清にあひ具して、楽しくなりにけり。
子など出で来て後、もろともに居たりける所近き所に、芋の蔓(つる)の這ひかかりて、ぬかごなどの生(な)りたりけるを見て、光清、
這ふほどにいもがぬかごはなりにけり
と言ひたりければ、ほどなく小大進、
今はもりもや取るべかるらん
と付けたりける、おもしろかりけり。
小大進ときこえし哥よみいとまつしくてうつまさへ まいりて御まへのはしらにかきつけける哥 なもやくしあはれみたまへ世中にありわつらふも同し病を とよみたりけれはほとなくやはたの別当光清にあひ くしてたのしくなりにけり子なといてきて後もろともに ゐたりける所ちかきところにいものつるのはひかかりて ぬかこなとのなりたりけるをみて光清 はふほとにいもかぬかこは成にけり といひたりけれはほとなく小大進 いまはもりもやとるへかるらん とつけたりけるおもしろかりけり/s19l