平中物語
また、この男、言ひみ言はずみもの言ひすさぶる人ありけり。さのみ、ものはかなくて、ありわたる。おのづから年月経にけり。
男、音(おと)せねば、女のもとより、霜月1)の一日(ついたち)の日、言ひたる。「年は幾年(いくとせ)にかなりぬる」と言ひたるに、あやしがりて、数へければ、三年(みとせ)といふ一日の日にぞありける。
古(いにしへ)の言の譬ひのあらたまの年の三年に今日こそはなれ
返し。
旧(ふ)りにける年の三年を改めてわが世のことと三千年(みちとせ)を待て
男、
心よりほかに命のあらざらは三千年をのみ待ちは過ぐさじ
と言ひて、この男、「いと久しきことの譬ひに過ぎぬべし。なほ、よそにてだに、いかでもの言はむ」とぞ言ひやりける。女は、われと人やりて、「や、よそにても会ふべき。この春・夏過ぐることをだに憎し。かつ、ことにして秋を」とぞ、言ひおこせたりける。
男。
会ふ道に天の河原を渡ればやことの契りに秋を頼むる
返し。
秋までと人を頼むる言の葉は露に移らぬ色ことにせむ
男、返し。
露移る紅葉散らずは秋待てと言ふ言の葉を何かわびまし
女、いかが思ひけむ。相語らひにけり。
さてすさひてやみにけり又このおとこい ひみいはすみものいひすさふる人ありけ りさのみものはかなくてありわたるおの つからとし月へにけりおとこをとせねは女 のもとよりしもつきのついたちのひいひたる/46ウ
としはいくとせにかなりぬるといひたるに あやしかりてかそへけれはみとせといふつい たちの日にそありける いにしへのことのたとひのあらたまのと しのみとせにけふこそはなれ かへし ふりにけるとしのみとせをあらためて わかよのこととみちとせをまて おとこ心よりほかにいのちのあらさらはみち とせをのみまちはすくさしといひてこの 男いとひさしきことのたとひにすきぬへし/47オ
なをよそにてたにいかてものいはんとそいひ やりける女はわれとひとやりてやよそにても あふへきこの春なつすくることをたににく しかつことにして秋をとそいひをこせたり けるをとこ あふみちにあまのかはらをわたれはやこ とのちきりに秋をたのむる かへし あきまてと人をたのむることのはは露 にうつらぬいろことにせん おとこかへし/47ウ
露うつるもみちちらすはあきまてと いふことのはをなにかわひまし 女いかか思ひけんあひかたらひにけり又この/48オ