平中物語
また、この男、人ともの言ひけり。ことに心に入れても思はぬことなれば、言ひさして、ものも言ひやらでありければ、女、「などか訪れぬ」と言ひけり。
祝部(はふりべ)の注連(しめ)やかき分けいひてけむ言の葉をさへわれに忌まるる
男、返し。
木綿襷(ゆふだすき)かけてはつねに思へども問ふ言忌(こといみ)の注連はいはぬを
さて、すさびてやみにけり。
となむかへしまさりなりける又このをとこ 人とものいひけりことにこころにいれても思は ぬことなれはいひさしてものもいひやらてあり/46オ
けれは女なとかおとつれぬといひけり はうりへのしめやかきわけいひてけん ことの葉をさへ我にいまるる おとこかへし ゆふたすきかけてはつねにおもへとも とふこといみのしめはいはぬを さてすさひてやみにけり又このおとこい/46ウ